第2夜 Fahrenheit

むせかえるような蒸し暑い夏、オレンジの夕陽…

f:id:happyinkdays:20210218083145j:plain

 

DATA

Name: Fahrenheit(ファーレンハイト
Brand: Dior
Lauched in 1988
Perfumer: Jean-Louis Sieuzac and Michel Almairac
50ml ¥9,020

 

My Episode

ぼくが本格的に二丁目に通うようになったのは、1993年の春のこと。

お酒も飲めないくせに、二丁目のお店の雰囲気が好きで、毎週末のように通っていた。

当時はぼくはこれでもサラリーマンだったので、スーツを着たまま遊びに行くこともあったし、一度家に帰ってから出ることもあった。

いつの間にかお店の常連さんたちとも仲良くなり、一晩中カラオケを歌ったり、クラブで遊んだりすることもあった。タバコを覚えたのもその頃だ。

その時、二丁目で爆発的に流行っていた香水がこのファーレンハイトと、カルバンクラインのETERNITYだった。

もう、ネコも杓子も…じゃなくてネコもタチもみんなこのどちらかの香水をつけていたんじゃないかって思うほど人気があった。

ぼくも、もちろん、この香水には本当にお世話になった。香りだけではなく、夕陽を思わせるボトルの美しさにも惹かれた。1993年の夏はその年に2丁目デビューを果たしたぼくにとっては本当に忘れられない夏になったわけだけれども、そのせいもあって、この香りはそんな2丁目の思い出と強く紐づけられている。

夏の週末の夕方。二丁目の大通りは多くのゲイで賑わっていた。お店からお店へ梯子をする人たちで通りが埋め尽くされていた。携帯もスマホもない時代。それでも、お店に電話をすれば必ず友だちがつかまったし、その友だちと別のお店で待ち合わせをして、はしごをする、なんてこともあった。

二丁目の大通りはそんな人たちでにぎわっていたのだ。そして、その通りや店ではこのファーレンハイトの香りが充満していたような気がする。

実際にはそんなことはなかったのかもしれないけれども、ぼくの記憶では完全にこの香りはあの夏の二丁目の街全体の香りなのである。

誰もが自分は特別だと思っていたし、その特別な自分を演出するための香りを探していた。そして行き着く香りは非常に個性的なこの香りだった。一度嗅いだらもう忘れることはできない。

でも、いつの間にかみんなこの香りを纏うようになったので、個性もへったくれもなくなってしまったのだけれども、それでも、この香りには麻薬のような魅力が潜んでいた。

今でも、ぼくはこの香りを愛用している。あの時のような気持ちで二丁目に行くことはなくなってしまったけれども、でもあの夏のドキドキ感を思い出したい時は、まるでタイムカプセルを開けるかのような気持ちでこの香りを纏ってみるのだ。

NOTES

Top notes
Nutmeg Flower, Lavender, Cedar, Chamomile, Mandarin Orange, Hawthorn, Bergamot, Lemon
Middle notes
Violet Leaf, Nutmeg, Cedar, Sandalwood, Honeysuckle, Carnation, Jasmine, Lily-of-the-Valley

Base notes
Leather, Vetiver, Musk, Amber, Patchouli, Tonka Bean

まず最初に嗅覚を刺激するのは何なんだろう?最初から個性的。香りの成分だけを見ると、ベルガモットだとか、レモンだとかカモミールといった非常にハーバルでアロマティックな印象なのに、サンダルウッドとかシダー、ナツメグといった香りとベースにあるレザーやパチョリなどがそれらの柑橘系と相まって、この個性を生み出しているのだろう。

ちなみに、調香師のMichel Almairacはぼくが世界で一番愛しているラルチザン・パフュームの「バラ泥棒」を作った人。それを知った時、ぼくは本当に驚いてしまった。そんなにたくさんの香水を作っている人ではないけれども、他のブランドの彼の香水もいろいろと試してみたいと思う。

My Evalution

★★★★