第16夜 Ombre Nomade

究極の深みを体験したい人へ…

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DATA

Name:Ombre Nomade
Brand:Louis Vuitton
Lauched in 2018
Perfumer:Jacques Cavallier
100ml ¥49,500

 

My Episode

ぼくのウード好きはだんだんと周りの人たちに浸透してきたらしく、いろんな人たちから、どこどこのウードは試した?とか、自分もウードが気になり始めた、という話を聞くようになった。
しかし、ウードというのは、知れば知るほど奥が深くて、種類も多くて(ローズやアンバーやムスクなどに比べれば、まだ少ない方だとは思うけど)、ぼくも知らないブランドのウード系香水はまだまだたくさんある。
しかも、ウードというのは、いわゆる日本でいうところの沈香とも呼ばれ、まず本当の意味でのウードはほとんど入手困難。そこで、ウードらしきものを様々な形で作り出して、いわゆる「ウード的なもの」として出しているところがほとんどらしい。そこがまたこの「ウード問題」を複雑にしている。

そこで、件の「ウード問題」についてぼくなりの解釈をここで書いておきたい。ただ、念のため、ぼくは香水の専門家でもないし、香料についてまだ体系的に勉強していないので、誤った認識を持っているかもしれないので、これはあくまでも今の時点でのぼくのウードに対する解釈ということでご了承いただきたい。

さて、そのウードというのは実に厄介な代物で、天然のウードというのは、ジンチョウゲ科のAquilaria crassna(Agarwoodとも呼ばれる)という木に傷がついたり、虫に食われたりしたことでその傷口から樹脂が分泌し、その分泌物が固まってできたものなのだ。日本でなぜ沈香と呼ばれるのかというと、その樹脂が木に沈着し、重みが加わり、水に沈むことから沈香と呼ばれる。沈香が生成されるまでの期間は50年とも100年ともいわれており、そのことから古今東西沈香は金と同じくらい珍重されていた。

ところが、今やこの天然のウードを使うことは自然保護の観点からほぼ不可能に近く、香水各社はいかにして天然に近いウードを作り出すか、苦心しているのではないだろうか。
これは、例えば雄のジャコウジカの分泌物を乾燥した香料であるムスクだとか、マッコウクジラの腸内で作られる結石から採取されるアンバーグリスといった香料と同じだ。
いずれも今では天然で採取することが不可能なのだ。
だから、様々な方法で「本物に近い香り」が作られている。
実は本当のウードの香りを知っている人なんて、中東にもいないんじゃないか?とすらぼくは思っている。
実際にとあるお店で本物のウードをかがせてもらったのだが、重々しい雰囲気のガラスの中に入っていて、「覚悟してね」と言われて、ガラスを取ってかがせてもらったわけだけど、それすら本物なのかどうか疑わしいとぼくは思っている。(確かに強烈な香りではあったけれども)
だから、ウードというのは実はあくまでもイメージなのではないかという気が最近はしている。
でも、ぼくはそれでも全然OKだと思っている。
ウードらしき香り。
それで充分。
ただ、そのウードをどうやって作り出すか、ということにぼくはとても関心がある。
人工的に量産することもできる香りなのかもしれない。
しかし、様々な植物などを複雑に組み合わせてウードらしき香りを作るのもOKではないか。
だから、ぼくの中ではウードというのは、本当にイメージだ。
いわゆるアニマリックと呼ばれる動物的な香りと、レザリーと呼ばれる革をなめした時のような香りがウードのベースとなっていて、そこに、いろいろな香料を加えて世界観を作る。
それがウード系の香水の魅力なのだ。
そんなウード系香水の中で、これぞウードと思える香りの一つが、今日ご紹介するルイ・ヴィトンの「オンブル・ノマド」である。
ルイ・ヴィトンはとにかくお金持ちのブランド。
なんと、この香料で使っているウードを作るために専用の山を持っているくらいお金をかけているという話をこの香水を初めて試した時に聞いて、びっくりした。さすがヴィトン、やることの桁が違いすぎる!(笑)
しかも、そのウードの香料が希少過ぎて、その香料を使っている香水は店舗限定なのだとか。
この「オンブル・ノマド」も一部の店舗でしか取り扱いがない。
でも、それも納得がいくくらいの香りの深さを味わえる。
ヴィトンはいわゆるDCブランドで、ぼくは内心「どうせヴィトンの香水なんてメゾン系に比べたら大したことないんでしょ?」とバカにしているところがあった。
しかし、この「オンブル・ノマド」を試してみたら、その先入観は吹き飛んでしまった。
これは、やはりすごい香りなのだ。
「Ombre Nomade」は日本語に訳すと「遊牧民の影」という意味なのだが、まさにその名前の通りなのである。ウードの独特の深みの中に、しばらくすると山椒のようなスパイスも感じられてくるし、ひっそりと甘さも控えている。
さまざまな表情がこの深みのある香りから出てくるのだ。
ヴィトンはいろんな香水を出しているが、それぞれにいろんなストーリーがあり、さらにお金のかけかたが他のブランドとは比べ物にならない。やはり、これだけ重厚な香りをクオリティを保ちながら作るのには財力がモノを言うのだなということが、この香りをかいだだけでわかってしまった。

NOTES

Agarwood (oud), Benzoin, Incense, Raspberry

この香水もFRAGRANTICAには詳しいNOTESが載っていなかったのだが、上記の4つの香りが公開されている。この香料をみただけで、この香りがどれだけ深いのかがわかるだろう。そして、インセンス(お香)やラズベリーといった香りもこの香水のさまざまな面を見せてくれる要因になっているのがわかる。
ぼくは夏でもこういう重い香りが好きでまとっているのだが、これを購入したのも、2020年の夏の暑い時期だった。湿度が高いと、ついつい軽い香りをつけがちだが、ぼくは湿度のある時こそ、こういう香りをつけて欲しい。まったりと、ねっとりとした空気を味方にするためには、これぐらい個性的な香りの方がかえって面白いんじゃないだろうか?ぼくはそんな気がしてならない。

My Evalution

★★★★★

もう、これは文句なしに今日本で購入できるウード系香水の中ではトップクラスだと思う。そして、2020年にぼくが購入した香水の中でもベスト3に入るほど気に入っている。一年中、お世話になりたい香りの一つだ。