第187夜 Poivre 23 London

凛とした空気の中で引き立つ最高のスパイス

f:id:happyinkdays:20210902202759j:plain

 

DATA

Name: Poivre 23 London
Brand: Le Labo
Lauched in 2008
Perfumer: Nathalie Lorson
100ml ¥38,500

My Episode

9月になった。
やっとぼくの好きな季節に近づいてきた。
湿度がなくなり、空気の中にひんやりとした冷たさを感じるようになると、やっとぼくの季節の到来、という気がする。
夏の暑さや湿度がどうしても苦手なぼくは、秋から冬にかけての肌寒さの方が心地よく感じられるのである。
とくに秋冬は香水が美しく香るのがまた良い。
夏のムンムンとした空気の中では濁ってしまいがちな香りが、湿度のない空気の中では美しく香るということが多々ある。
昨日、ぼくはそれを実感した。
9月といえば、ニッチフレグランス好きにとっては気になる季節でもある。
秋冬の新作香水が発表される時期でもあるが、もう一つ気になることがある。
それがアメリカの香水ブランドであるル・ラボの都市限定の香りがこの時期だけ他の都市でも買えるからだ。
昨年はそれを知って、ふたつの香りをお迎えした。

 

1001perfumenights.hatenadiary.jp

 

1001perfumenights.hatenadiary.jp

昨年はル・ラボのことをあまり良く知らなかったので、9月にふらりとお店に遊びに行って、ふたつの香りに惹かれたのだが、今年は事前に予習をしようと思っていた。
9月の発売の前に、8月の段階からシティ・エクスクルーシブの香りを試すことができ、さらにディスカバリーセットといって、自分の気になる香りをの2mlのものを5本選ぶという、なんとも魅力的なセット販売をしていたのである。
このディスカバリーセットというのは、実に嬉しいセットだ。
気になる香水を少量でいいから試したいということがままある。
ムエットだけだとわからないし、商品を買った時にもらうサンプルには限りがあることが多い。(サンプルを5本もらうには5本買わなきゃなんない)

だが、こうやってディスカバリーセットとして売ってくれると、お金はかかるものの、自分の気になる香りを試すことができるのだ。
だから、ぼくは8月の暑い時期にお店に行き、そこでまず全種類を試し、その中から気になる香りの5本を選んだ。
そして、本発売となる9月までの間にそのサンプルを使っていたのだ。
1.5mlなので、ぼくの場合はだいたい2回で使い切ってしまう量なのだが、それでも、たっぷりと肌に載せることができるので、大変ありがたい。
そして、ぼくはそのうちの1本の香りは絶対に50mlで購入しようと決めて、それはすでに8月の段階で予約をしておいた。
残りの4本については、保留になった。
もし、どうしても気になったら、50mlの下の15mlでも良いかな、ぐらいの気持ちだった。

そして、9月1日の午前中に、ぼくはいそいそとル・ラボの銀座店に向かったのである。すでに予約を取ってくれたスタッフはぼくのことを覚えていてくれて、またあれこれと会話をしながら他に気になる香りを試してみた。
ところが、15mlで良いかなと思っていた香りが、急に「あれ?ちょっと待てよ!何この素敵な香り!」ってなったのである。ディスカバリーセットで試した時は、ピンとこなかったのに、なぜか店頭で試したら、魅力的に感じたのだ。
そして、瞬時に理解した。
その日は気温がぐんと下がり、少し肌寒いくらいだったんである。
ぼくがその香りを試したのは夏の真っ盛りで、じめじめとした時期だった。
その時は肌の上ではあまりその香りの良さが発揮されなかったんである。
思わず店員さんに「え?何?この素敵な香り!夏の時期は全然感じなかったのに!寒さのせい?」とたずねたら、ビンゴだった。
店員さんも目をキラキラさせて、「そうなんです!これは寒い時期にものすごく美しく香り立つんです!」と教えてくれた。

こんなにも違うんだ!と本当にびっくりした。
夏の暑さでは濁っていた香りが、湿度と低い温度の中ではぐっと香りが引き締まるんである。

それが「Poivre 23」。
ロンドンの香りと聞いて、なるほどなるほど、そういうことねって思った。
湿度も低いし、日本のようにベタベタ、ジトジトというイメージはない。
ならば、冬の寒い時期にぴったりというのも納得なんである。
ポワブルとは、ペッパーのこと。
そして、ラルチザンフリークのぼくにとってのポワブルは「ポワブル・ピカン」という、廃盤になってしまったベルトラン・ドゥショフールの名香がある。
刺激的なペッパーという割には、意外にもまろやかで拍子抜けしたのだが、でも、名香であることには変わりなく、ぼくは本当に良く使っていた。
だから、ポワブルという名前を聞くと、パブロフの犬のごとく、鼻がひくひくと動いてしまうんである。

閑話休題

ルラボのこのポワブルは、当然のことだけど、ベルトランのポワブルとはまったく違っている。刺激的という点においては、ルラボの方が勝っていると言えるだろう。本当に刺激的なんだから!
でもスパイシーなだけではなく、実は甘さもあるのだ。
それが本当に美しい甘さ。
ベタベタした糖分過多の甘さではなくて、スパイスとマッチした甘さといおうか。
本当に美しくて、くらくらする。
昨日店頭でムエットに載せた瞬間にぼくは恋に落ちた。
肌に載せなくてもわかる!っていうくらい素晴らしいのである。
昨年、「TABAC 28」にくらくらしたのと同じ感覚。
絶対にこの香りはぼくのこれからの人生に大きな影響を与えることになるだろういう予感を秘めた香り。
こういう香りとの出会いがあると、本当に嬉しいし、自分の人生が少しだけ豊かになった気持ちになる。
だから、香水って辞められないんだ。

Note

Pepper, Labdanum, Vanilla, Incense, Styrax, Guaiac Wood, Sandalwood, Patchouli

きっとこのすっきりとした甘さは、ラブダナムとヴァニラとインセンスによるものなのだろう。スパイスとのバランスが良くて、輪郭がはっきりしている。こういう香りがやっぱりぼくは好きなんだなぁ。

My Evalution

★★★★★
なんと、調香師は先日ご紹介したMaison VioletのSketchを作った女性。

 

1001perfumenights.hatenadiary.jp

 

あぁ、なるほど、こういうスパイシーな香りがこの人はものすごく得意なのかもしれないとぼくは妙に納得した。

ルラボ、正直に告白すると、あまり知らない時は舐めていた。
香水に関しては後進国という印象が否めないアメリカのブランドだし、どうせ、清潔感ばっかりウリにする単純で面白くないブランドに違いないと勝手な偏見を持っていた。
ところが、実際にいろいろと試してみると、香りそのものも良いし、あと何よりも店員さんたちが本当に素晴らしいのである。ルラボの店員さんたちの知識量と、あと香水への愛がすごい。
自分たちのブランドだけではなく、他社ブランドについても熟知していて、ぼくが「ラルチザンのバラ泥棒が一番好きで…」って言うと、すぐに「あぁ、わかります!なかなかないバラの香りですよねぇ」とか、「フエギアが好きだ」と言えば「新作試しましたか?気になっているんですよ!」って、反応してくれるような感じなのだ。

そういう人がおすすめしてくれる香りだったら、安心できるし、買い物も楽しくなるので、またぼくは足しげく通ってしまうことになるんである。