第434夜 Dirty Rainbow

抑圧から解放された静かだけど力強い香り

 

DATA

Name:Dirty Rainbow
Brand:BORNTOSTANDOUT
Lauched in 2024
Perfumer:Alex Lee
50ml ¥29,150

My Episode

以前、サロンドパルファンでご一緒したある愛好家の方が、あるブランドの香水は無条件で集めているという話をしていた。同じ時期、仲良くしている某香水店の店長も、フレデリック・マルの香水は全部持っていて、あと2本でコンプリートするという話をしていた。
それまで、ぼくは例えばラルチザンパフュームの香水をそれなりに集めたりしていたが、ディスコンになってしまった香水も多く、コンプリートはほぼ不可能だし、中には苦手な香りもあるので、やはり全部揃えることは考えていなかった。
しかし、彼らに言わせると、苦手な香りであっても、自分の好きなブランドが出している香りなので、やはりどこかしら魅力があるはずだと言うのだ。なるほど、確かにその通りだと思い、ぼくもどこかのブランドを全部揃えてしまおうか、という気になった。前述の通り、ラルチザンパフュームのようにディスコン商品のあるブランドはまず除外しなくてはならないし、かといって、全部無条件で集めたくなるブランドはあるだろうか?と考えた時にふと頭に浮かんだのが、韓国のブランドBORNTOSTANDOUTだった。2022年に創業とかなり新しいブランドだし、ぼくの大好きな調香師たちが手掛けているし、さらに、ブランドコンセプト、ボトルの形、それぞれの香りの特徴、すべてがぼくの好みに合うではないか!
それからぼくのBORNTOSTANDOUT集めが始まった。当初日本に上陸した時の代理店は撤退してしまい、今は日本で取り扱いをしているのは金沢のPHAETONのみで、都内で取り扱いをしている店舗も少なく、数量も限られてしまった。でも、BORNTOSTANDOUTの公式サイトから日本に送ってくれることも知ったので、もう、これからは安心してコンプリートに向けて集めることができるじゃないか!と思っていた。
ただ、問題は次から次へと新作や新シリーズが出て、追うのが大変だってこと。まだ通常ラインも全部揃っていないのに、新作がどんどん出るんだもん!しかも、公式サイトを見ていたら、何本かSOLD OUTになっているのがあり、その中に限定のボトルがあって、あー、ひょっとしてコンプリートはできないか?と不安になった。それは、虹色のハートが描かれたもので、どうやら世界限定2000本らしい。ぼくはてっきりこれはもう売り切れかと思ったら、7月9日から始まった、伊勢丹メンズ館での香水夏市に数量限定で出るとあるではないか!恐らく、なのだが、本国でも店舗にはあるが、オンラインでは売らないという商品なのかもしれない。
こうなったら、是が非でも買いに行くしかない!と鼻息も荒く、香水夏市初日にほぼオープンと同時に伊勢丹メンズ館に行ったのだ。
お目当てはこの一本だったが、新作のEau Intimiteシリーズは全部揃っていて、テンションが上がってしまった。実はこのシリーズは先日本国からディスカバリーを取り寄せたので、それをじっくりと試してから改めて夏市の間に買いに来ようと思っている。
さて、世界限定2000本というDirty Rainbowであるが、とても優しい香りだ。
反逆を意味している香りというので、もっととがった香りかと思いきや、意外にも優しい香り立ちなので、ちょっと拍子抜けするくらい。でも、良くこの香りと向き合ってみると、ただ優しい甘い香りというだけじゃない、芯のある香りだということに気付く。最近ではレインボーというのはLGBTQのアイコンとして使われているので、このレインボーハートにはそういう意味合いも含まれているのだろう。特に儒教の精神が色濃く残っている韓国の同性愛者を巡る差別や偏見は、同性愛者に比較的寛容な日本とは比べ物にならないことをぼくは経験上知っている。根強く残る偏見に耐えかねて韓国のゲイの子たちが日本に逃げて来る様を間近に見ていたし、韓国の彼氏と一緒に同棲していた友だちもいたから、なおさら韓国のLGBTQ事情についてはそれなりに理解をしていた。
ぼく自身、それを感じる出来事があった。ぼくはクリスチャンで、関口教会に属しているのだが、関口教会は韓人教会を包括していて、韓国の信者さんもたくさん通っている、そのことからボランティアで韓国語教室をやっているというので、今から15年ほど前に教室に通っていたのだ。
その時担当したのが男性の先生だったのだが、例えば、昨日何があったか、というのを韓国語で応えてくださいという先生からの問題に対して、ぼくは普通に「女友だちと一緒にカフェに行きました」と言ったら、先生は突然「その女友だちは恋人ですか?」と聞いていたんである。ぼくはふつうに友だちだと答えたら、「その人は結婚していますか?」とさらにつっこんできたので、正直に彼女は結婚しているけれども、ぼくとはふつうの友だちの関係だと言ったら、その先生は突然「それは良くないことです!韓国では結婚している女性と独身の男性が一緒にカフェに行くことは許されません」と怒り出したの!もう、びっくりしてしまいました。たまたまその先生が保守的な方でそういう反応をしたのかもしれないが、とにかく、この時代にその発言はないだろう?と。ぼくは敢えてそのクラスでは自分がゲイであることは伏せていたのだが、言わなくて良かったと思った。そういうこともあり、結局ぼくはそのクラスに行かなくなってしまい、今でも韓国語をまともに喋れないのであるが。
閑話休題
Dirty Rainbowに話を戻すと、この香りは最初は非常に穏やかな甘さで始まる。
クリーミーで、ちょっとグルマン系の甘さ。でも、具体的にそれがバニラとか、蜂蜜とかいうのではなく、何となく食べ物系の甘さかなぐらいの実にソフトな感じなのだ。
ところが、ミドルぐらいから、ちょっとピリッとしたサフランが出て来る。ただ、本当にちょっとだけ。そして、この香りの凄いところは、香りの持ちがとても良いということ。
この香りを添寝香水にして一晩寝たのだが、翌朝になってもほんのりと肌に甘さが残っているのである。ちょっとパウダリーに変化しているが、残り香がまた綺麗で、そこにぼくは反逆の精神を見た気がした。
声高にアクトアップするのではなく、静かにでも力強く、自分の意志を曲げないこと。それが最強のアクトアップになるのではないか、というブランドの意志のようなものを感じた。
ぼくは一度だけブランドオーナーのJun Limにお会いした(というかお見掛けしただけだが)背の高い物静かなイケメンさんという印象で、いつか、じっくりとお話を聞きたいなぁと思っているところである。っていうか、ぼくのBORNTOSTANDOUT愛を直接伝えたい!笑笑

NOTES

Saffron, Ivy, Peach, Violet, Orange Blossom, Lavender

甘さのベースとなっているのは恐らくPeachとOranbe Blossomだと思うのだが、それほど桃という感じはしなくて、Oranbe Blossomの香りによって、その感じが中和されているのだろう。

My Evalution

★★★★

優しいけど芯のある力強さも感じる香りだけど、ぼくにはちょっと優し過ぎるかなぁ。でも、だからこそ多くの人に受け入れられるようになるので、そういう意味ではこの香水やブランドのコンセプトに合うのかもしれない。
日本入荷数は少ないので、気になる方はお早めに。なお、シリアル番号入りで、店頭では番号を選べるようになっています!