第428夜 Dorian's Spleen

退廃的なコーヒーとウィスキーの香り

 

DATA

Name:Dorian's Spleen
Brand:L'Entropiste
Lauched in 2025
Perfumer:Bertrand Duchaufour
日本未発売

My Episode

一番好きな調香師は誰?と聞かれたら、ぼくは迷わず、ベルトラン・ドゥショフールと答えるだろう。ぼくが彼のことを初めて知ったのは、10年以上前のこと。ラルチザンパフュームを知ってから、彼がラルチザンでたくさんの香水を手掛けていたことから、彼のことを知ったのである。当時、ベルトランは数々の香水をラルチザンで作っていて、ベルトラン=ラルチザンと言っても過言ではなかっただろう。
ぼくの大好きなアルードも彼の作品だし、パチョリパッチ、ゾンカ、イスタンブールの空、感情シリーズなどなど、個性的な香りを次々とリリースしていた。
ベルトランはラルチザン以外のブランドでも作っていたが、ラルチザンを離れてからは、さらに精力的に様々なブランドで香水を作り、ぼくはできるだけ試せるものは試してから気に入ったものを手に入れるようにしていた。中には「え?ベルトランでもこんなつまんない香水作っちゃうんだ」っていうのもあるので、そこは慎重に選びたいところ。
さて、そんなベルトランが最近自身のブランドを立ち上げたという話を聞いたのは先週のこと。
たまたま遊びに行った阪急メンズ館の女性スタッフが教えてくれたのだ。彼女は本当に香水好きで、アンテナを張り巡らし、常に新しい香水に関するトピックスを持っていて会うのが楽しみなのだが彼女がインスタでそのことを知ったと見せてくれたのだ。
ぼくもベルトラン本人をフォローしていたのだが、どうやらそれは昔のアカウントらしく、今のアカウントは違うプロフィール写真になっていて、そこから辿ると、彼の立ち上げたというブランドにたどり着き、それを見る限りではどうやらベルトランのブランドらしいことが判明。
ぼくの中で一気にテンションがマックスになり、その場でフォローした。
そして、家に帰り、インスタからそのブランドサイトに飛んでみたら、すでに6つの香りがリリースされているらしいことが判明した。
さらに調べてみると、なんと、日本へも配送をしてくれるらしいこともわかった。
え、ちょっと待って!ってことは、注文できるってこと!?となり、ぼくはそのサイトとFragranticaの情報を頼りに、気になる香りを3本選んで、カートに入れ、ポチッとしたら、無事に注文が通ってしまったんである。
でも、ぼくはバカなので、何も考えずにポチッとしたのだが、930ユーロって、円換算すると16万円超えるのね…。ブラインドバイで1本5万円強。顔面蒼白になったが、もう、これは仕方ない。フエギアに比べれば安いじゃないか!パリに行くよりも安いじゃないか!と勝手に自分に言い聞かせた。
ただ、驚いたことに7月4日に注文して届いたのが4日後の8日だったのだ。パリからの発送でここまで速いのは、本当に嬉しかった。
さて、3本の香水は2つの箱に入れられて送られてきた。しっかりと梱包されているので国際便でも安心。
そして出て来たボックスがまたちょっと変わっている。ボトルの形そのものが変わっているのだが、それに合わせてボックスもユニーク。

そして、中から出て来たのは、サイトでも見かけた独特の形のボトルだ。こんなボトル今までぼくは見たことがないのだが、とにかく一風変わっている。なんというか、斜めになっていて、不安定な形。でも、きちんと自立するし、キャップも当然ちゃんとはまる。ただ、ボトル本体が斜めなので、ボトルとキャップの間に隙間ができるのが気になるのだが。
そんな他のブランドにはない独特のボトルデザインというのもいかにもベルトランらしくて面白い。

さて、ぼくが今回ブランインドバイした香水は
Dorian's Splee
Altamura
Blanc Sada
の三本。
いずれもFragranticaや公式サイトを見て、内容を確認してこれらが一番気になったので頼んでみたのだ。これがまた大正解だったので、今日から3日間にわたってご紹介したいと思う。
今日ご紹介するDorian's Spleenは、コーヒーとウィスキーとキャラメルとスパイスという内容で、もうこれは絶対に好みの香りに違いないと思ったから。そして、それは見事に大正解だった。
3本の中で一番好きな香りかもしれない。
でも、最初に肌載せした時は「ん?ちょっとありがちな香りじゃない?」って思ったのも事実。
というのも、トップは非常に優しいコーヒーの香りだから。ベルトランはラルチザンパフュームでも「Noir Exquis」という素晴らしいコーヒーの香りを作っているのだが、それはコーヒー屋さんの前を通った時に漂ってくる、焙煎したコーヒーの苦い香りがするのだが、それに比べると「Dorian's Splee」は非常に甘くてマイルドなのだ。
ところが、肌の上で温まると、だんだんと変化してきて、非常にユニークな香りになってくる。苦みが出て来るだけでなく、ちょっとウィスキーの香りが混ざってきて、コーヒーの要素を保ちつつも少し独特のクセが表面化するのだ。あぁ、これよこれ、ベルトランらしさっていうのはここ!って思うような個性的な香りへと移り変わる。そこが本当に面白い。
ところで、タイトルにあるSpleenとは、直訳すると「脾臓」という意味らしいが、この意味合いでは「凶悪性」とか「怒気」という意味になるだろう。
「ドリアンの凶悪性」という感じ?
そしてサイトの説明文を読むと、このドリアンというのがあのオスカーワイルドの代表作である「ドリアングレイの肖像」の登場人物であることがわかる。つまり、この香りは放蕩生活を送ることになるドリアングレイの生涯を表現しているのではないだろうか。
そして、それを見事に香りで再現している。面白いのは、トップの柔らかな印象からミドル~ラストにかけてのダークな雰囲気への変化がはっきりと肌の上で感じられるところ。
一筋縄ではいかない、ベルトランらしい作品と言えるだろう。一回肌載せしただけで、あぁ、意外と優しいのね、って思わせておいて、しばらくすると、え?何?すごく暗黒を感じない?というところが、実にユニークで、最初に「つまんない香り」だと思ってしまった自分が恥ずかしくなった。
ということは、だ。今までつまんない香りねと思っていたベルトランの作品もちゃんと向き合うと、それぞれにベルトランらしい面白さが出て来るってことなの?っていう気にもなって、改めて、手に入れることができるベルトランの作品は片っ端から手に入れて研究すべきなのでは?っていう気になってしまった。

NOTES

Whiskey, Spices, Coffee, Caramel, Smoke, Dark Chocolate, Ash

コーヒーとキャラメルとダークチョコレートっていうところだけ見ると、優しい感じがするのに、そこにウィスキーだのスパイスだのスモークだのアッシュだのが加わるから、そこにベルトランらしい変化球が感じられる。退廃的という香りは、やはりこういう酒とかたばことかそういうところと結びつくわけね、と思うのである。


My Evalution

★★★★★

正直に言うと、最初肌に載せた時の評価は星4つだった。ところが、時間が経つにつれて変化するのを感じてからは、もう断然★5になった。さらに、その変化を知ってから肌に載せると、もうその変化してからの香りを最初から鼻が予測できるようになり、あぁ、退廃的!ってなる。そう。お酒に酔ったような感じになるのだ。ウィスキー感を強く感じられるようになって、これはもう、ぼくの予想通りの大好き香水だと言えるだろう。これはね、ぜひ夜に一人でバーに行くときに纏って欲しい。タバコを吸う人とかたまらないと思う。この香りにタバコの煙が加わると、それだけで退廃感が増す。ダークな世界が好きな人は試して欲しい。この香りをしっかりと楽しめる年齢になって良かった。たぶん若い頃には気づけなかった部分かもしれない。

「ドリアングレイの肖像」は、大学時代、英米文学の講義の中でぼくが敬愛している教授に習ったのだが、久々に読み返してみたくなった。ちなみに、ぼくが大学院の卒論で取り上げた三島由紀夫の「禁色」は、「ドリアングレイの肖像」へのオマージュで、そんなことからも、ぼくはこの香りに惹かれたのだ。