第1夜 ANTAEUS by CHANEL
ギリシャ神話の神の名を冠した雄々しくて優しい香り――
DATA
Name:ANTAEUS(アンテウス)
Brand:CHANEL
Launched in 1981
Perfumer:Jacques Polge
50ml ¥8,200
My Episode
ぼくが初めて恋をした香水。
1991年の春、ぼくは大学の卒業旅行で、中学時代の男友だち3人でバリ島に行った。その中の一人の男はぼくのタイプで、ひそかに(というか本人にも同行の友人にもバレバレだったけど)恋をしていた。
その彼がつけていたのがこのアンテウスだった。
しかし、その時はそのことに全く気付かなかった。
帰国してしばらくしてから、香水売り場を通りかかった時にこのボトルが目に入り、なんとなく試してみたら懐かしい感じがして、香りの記憶を辿っていったら、なぜかバリ島の記憶に結びついた。
なんでだろう?とずっと記憶を探るうち、バリ島に一緒にいった片想いの男に行き当たった。そして、彼にそのことを話したら、彼が愛用していたのがこの香りだったのだ。
少しませていた彼は高校時代からこのアンテウスを愛用しているのだと。
それまで、マンダムのギャッツビーという名前のコロンしか知らなかったぼくには、それはとても衝撃的なことだった。
それから、ぼくにとってこのアンテウスは特別な香りになった。
その後、ぼくは何度もバリ島に足を運ぶことになるわけだけれども、その時に必ず持参したし、二度目のバリ島旅行で恋をしたホテルのボーイがこの香りをとても良いと言ってくれたので帰り際にプレゼントしたこともある。
だから、この香りはぼくにとっては片想いの男と南国の空気と密接に結びついた香りになったのだ。
数年前、この香水をデパートで購入した際、スタッフにこの香水が大好きでもう10本目ぐらいなんです、と話をしたら、そのスタッフは非常に驚いていた。なぜなら、アンテウスは日本ではあまり人気がない香りなんだとか。
でも、今でもちゃんと売り場にあるということは、人気がないながらも、根強いファンがいるに違いない。一応メンズということにはなっているけれども、実はぼくは何人かのアンテウスを愛用しているという女性を知っている。
癖はあるけれども、好きな人は好き、そんな香りなのだと思う。
NOTES
Top notes
Myrhh,Clary Sage,Coriander,Bergamot,Lime,Amalfi Lemon
Middle notes
Rose,Thyme,Basil,Jasmine
Base notes
Castoreum,Oakmoss,Patchouli,French labdanum
トップノートにベルガモットやライムといった柑橘系の香りはいるのだけれども、ぼくの鼻は、すぐにベースノートのパチョリやオークモスをキャッチしてしまう。きっと南国の暑さだとこれらの香りがすぐに出てくるのかもしれない。結局ぼくはこういう重い癖のある香りが大好きなのだ。当時はそんなことに気づかず、ただひたすらにこの香りが好きだったけれども、その後、数多の香水を体験し、やっとなんでぼくがアンテウスをこんなにも愛しているのか、ということがわかった気がする。
きっとぼくはこれからもこの香水を愛し続けるだろう。そして、まるでいつまでも口の中で転がして味わう飴玉のように、何度も何度も、鼻の奥で好きだった男のことや、バリ島での日々を思い出すことだろう。
ところで、悪名高き「世界香水ガイド3」(ルカ・トゥリン タニア・サンチェス著 芳山むつみ訳 原書房刊)によれば、アンテウスは次のように紹介されている。
1981年にアンテウスが登場したとき、正直にいうとあまりいいとは思わなかった。それは最初のゲイの男性用香水として、何年もの間一日にボトル半分も使うような用い方をされていたせいもある。
ぼくがこの香水に惹かれるというのは、あながち間違っていなかったということなのだろうか。
My Evalutions
★★★★★