第58夜 Monsieur

スモーキー、スパイシー、ウッディー、最高の思い出

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DATA

Name: Monsieur(ムッシュー)
Brand:Frederic Malle
Launched in 2015
Perfumer:Bruno Jovanovic

My Episode

一本の香水から素晴らしい出会いが生まれることは人生の中で一体何回あるだろうか?
ムッシュー」はそういう意味ではぼくにとっては特別な思い出に残る一本と言えるだろう。
2019年の10月に伊勢丹新宿店にて開催された香りの祭典「サロンドパルファン」はぼくにとっては、ひとつの節目になるイベントだった。
2015年に日本に初上陸したフエギアにはまってから、ぼくはしばらくフエギア三昧な数年を送っていた。
他のブランドには目もくれず、ひたすらフエギアの香水ばかりを追いかけていた。
しかし、フエギアはどれもとても素晴らしい香りなんだけど、調香師が一人で香りを手掛けているので、どうしても香りの系統が偏ってしまうという面もあり(そこがフエギアの魅力でもあるのだが)、正直、ぼくの鼻は少しフエギア疲れを起こしていたのかもしれない。
そんなぼくにとって、サロンドパルファンの会場は、魅惑に満ち溢れたものだった。フエギアも出展していたのだが、その他にもいくつもの気になる香水ブランドが集結していた。
たった3日間という短い期間だったものの、ぼくは3日間ずっと通ってしまうほど楽しんだ。
今まで気にはなっていたけれども、ちゃんと販売員の方の話を聞くことがなかったブランドもあれば、初めて触れるブランドもあり、それぞれの販売ブースでスタッフの方々の話を聞きながら香りを試すのは至福のひと時だったのだ。
初日に行った時、ぼくは一つ気になるブランドに立ち寄った。それがフレデリック・マルだった。すでにぼくは数年前に「ムスクラバジュール」という素晴らしい香りをお迎えしていたのだが、それ以降、ずっと気になるものの、あまりにも種類が多くて、ずっと手を出せずにいた。
しかし、その時、たまたまブースで香りのコンサルティングをしてくれるというので、立ち寄ったのだ。
それまでも、ぼくはラルチザンパフュームの表参道店や帝国ホテル内のゲランなどで同様のコンサルティングを受けたことがあったが、この時のコンサルティングは非常にエキサイティングで、刺激的なものだった。
まず彼はぼくがすでに「ムスクラバジュール」を購入したことを知った後、マルというブランドはどこまで知っているのかとたずねてきた。
実はぼくはあまりマルのことは知らなかったので、正直にそれを伝えると、彼は簡単にフレデリック・マルというブランドについて教えてくれたのである。
その中で一番印象的だったのが、ブランドオーナーであるフレデリック・マルは、自分は雑誌の編集長のようなもので、その編集長が様々な作家に依頼をして作品を書かせる感覚で、調香師に香りを依頼するというのだ。
つまり調香師は小説家ということになる。
だから、フレデリック・マルの香水はどれもきちんと調香師の名前を明かすだけでなく、ボトルやボックスにきちんと調香師の名前を記すのだとか。そういうところもぼくにはとても魅力的だった。
さらにボックスにもこだわりがあり、収納する際に本のように見えるように背表紙を統一しているのだという。
それを聞いて、ますますぼくはフレデリック・マルというブランドに興味を持った。
コレクションするのが大好きだから、そういうのには非常に弱いのだ。
さらに、ぼくの好きな香りや調香師の話をすると、その時の担当者はそれらの香りをすべて把握していた。もう、それだけでぼくは嬉しくなるのだ。
香水の販売員だったら、ラルチザンパフュームというブランドの香水ぐらいはみんな知っていると思うが、じゃあ、そのブランドで活躍をしたベルトラン・ドショフールのことを知っている人がどれだけいるだろうか?さらに彼が手掛けた「アルード」や「パチョリパッチ」という香水のことをどれだけ知っているだろうか?
ぼくは今までいろんなブランドの販売員と話をしてきたが、そこまで深い話ができる人はほとんどいなかったように思う。
しかし、彼は違った。
ぼくが次から次へと好きな香水として挙げるすべての香水をきちんと把握していたのだ。
この人はそうとう勉強をしている人なんだなと思った。そして、この人だったら、きっとぼくのフレデリックマルの2本目にお迎えすべき香水を選んでくれるに違いない。
そう確信した。
ぼくは初めて会う香水販売員の人には、好みの香りの傾向を伝えるだけでなく、好きな調香師のことなども話すのだが、彼がまずぼくに勧めてくれたのは、ジャン・クロード・エレナがマルで手掛けた何本かの香水だった。
しかし、残念ながら、その時のぼくにはピンとこなかった。
そこで、今度はぼくの好きな香りの傾向から、何本かの香水が提示された。
その中の一本が「ムッシュー」だった。
まずはムエットで試したのだが、もう、その段階でほぼノックダウン状態。
ぼくの中では「ムッシュー」は「ムスクラバジュール」の延長線上にいた。かっこよくて、スモーキーで個性的。透明感とは無縁。存在感あるのみ。そんな香りなのだ。
これは絶対にこれからぼくの人生になくてはならない香りになるに違いないという絶大なる確信があった。
だから、容量も迷わず100mlでお迎えしたのである。
今でもぼくはこの香りをことあるごとに纏っているのだが、そのたびにあの伊勢丹のサロンドパルファンでの至福のひと時のことと、そこで出会った一人のベテラン香水販売員の彼のことを思い出すのだ。
こういう出会いというのは、本当に奇跡的なことだと思っているし、ぼくはその出会いをこれからも大切にしたいのだ。
この香りはそういう意味で、本当に特別な香りになった。
だから、香水探しはやめられないんである。

NOTES

Top note: Rum, Tangerine
Middle notes: Patchouli, Incense, Cedar, Amber
Base note: Musk, Vanilla

シュッとひと吹きしただけで、その空間がたちまち浄化される。そんな香りだ。スモーキーで、ウッディーで、そしてスパイシー。これは恐らく、パチョリとインセンスの香り。さらにラムのとろりとした甘さが加わり、それがだんだんとバニラの甘さへと変化する。肌の上でそれらの香りがいろんな形で顔を出すのだ。ムッシューという名のごとく、男性的な香りではあるが、こういう香りを女性がつけても非常にかっこいいのではないだろうか。

My Evalution

★★★★★

香りも素晴らしいだけではなく、この香水と出会った時の思い出というのもぼくにとっては大切なので、やはり「ムッシュー」は最高の評価になるのだ。