第10夜 Voleur de Roses

 

嵐の後の野原に一輪だけ残った深紅の薔薇の力強い香り…

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DATA

Name:Voleur de Roses(バラ泥棒)
Brand:L'Artisan Parfumeur
Lauched in 1993
Perfumer: Michel Almairac
日本では販売終了

My Episode

香水というのは生ものだと思っている。
その時はピンとこなくても、別の日に試してみたら、たちまち好きになるという現象、香水好きならば誰もが経験したことがあるだろう。
その香水と向き合った時の状況によって、香り方がまったく違って感じられるのである。その日の自分の心理状態、健康状態、体温、といったパーソナルなことだけではなく、季節、湿度、温度、環境などなど様々な要因がその香りを印象付けることになる。
だから、香水は生ものなのだ。
良いなと思って買ったものの、家でつけてみたらそうでもなかったという話は良く聞く話だ。
そして、その逆もまた然り。
ぼくにとってこの「バラ泥棒」はまさにそんな香りだ。
昨日の投稿で、初めてラルチザンパフュームの路面店に行った男性限定のイベントのことを書いたが、その時にすすめられたのがこの「バラ泥棒」だった。
しかし、その時はなぜかピンとこなくて、結局「ニュイ・ド・チュベルーズ」を選んだ。
そして、まさかその時、その勧められた香水が、ぼくにとって人生で最も好きな香水になるなんて、思いにもよらなかった。
しかも、そのことに気づくまでに、数ヶ月もかかってしまうなんて!
2013年5月のイベントで初めてラルチザンの店舗に遊びに行った後、ぼくはネットなどで、ラルチザンの別の香水を購入しながら、少しずつラルチザンの独特の世界にはまっていった。
そして、8月の暑い日に再び表参道店を訪れ、そこで、改めて「バラ泥棒」を試してみたのだ。
実はぼくはバラの香りがそんなに得意ではない。
なんとなく、フェミニンな印象がとても強いから。
ふわふわしてて、可愛らしい感じの香りで、しかも、結構安物の香水にバラの香りが使われるものだから、その印象が強くて、敬遠している部分も多かった。
思わず「かまととぶるんじゃねぇわよ」と言いたくなるようなバラの香りってあるじゃないですか?そんな感じ。
だから、「バラ泥棒」と聞いただけで、変な先入観を持ってしまって、無意識のうちに身構えていたのだ。
しかし、そういう先入観を捨てて、改めてこの香りを試してみたら、印象ががらりと変わった。何となく、外国にいるような感覚に陥ったのだ。それもヨーロッパではなくて、バリ島かどこかの南国のイメージ。その記憶の源になるのがなんなのか、今でもつかめないのだが、その海外のイメージが沸いてから、ぼくはこの香りが一気に好きになり、その日に購入したのだった。
それから、ぼくは事あるごとにその香りを纏ったのだが、纏うたびに、どんどん好きになっていった。
なんだろう?この「好き」の感覚は。
以前ご紹介した、ファーストラルチザンの「アンバー・エクストリーム」の時とはまた違った高揚感のようなものを味わえるのだ。
そして、その「好き」の気持ちが今でもまったく変わっていない。
無条件でとにかく好き。
この香りを一言で表現するなら、かっこいいバラの香りだ。
ぼくの嫌悪していたフェミニンなバラはここにはいない。
とにかく雄々しい。
男性限定のイベントでこの香りを勧めてくれたスタッフはぼくにこう言ったのだ。
「まるで嵐の後の花園に一輪だけ咲いている薔薇を彷彿とさせる香りは、ライターの健さんにぴったりだと思いますよ」
その表現が正に適格なのだ。
ぼくは、これほどまでに土臭いバラの香りを知らない。
しっかりと大地に根差したバラ。
もう、このバラの香りを知ってしまったので、他の薔薇の香りの香水はまったく興味がなくなってしまった。今のところ、ラルチザンの「バラ泥棒」を超えるバラの香水をぼくは知らない。
先日、とある高級ブランドの香水専属のスタッフが、そのブランドの最高級品質の薔薇の香りを自信を持っておすすめしてくださったんだけど、残念ながら、ぼくにとってはこの「バラ泥棒」を超えることはできなかった。
でも、逆に言うと、他の普通の薔薇の香水が好きな人には、この「バラ泥棒」は苦手かもしれない。
雄々しすぎるのだ。
後で聞いたところによると、ラルチザンの表参道店では人気の香りだったけど、日本全国という目で見ると、やはりそんなに人気というわけでもなかったらしい。それが証拠に、バラ泥棒はリニューアルと同時に日本では取り扱いが終了してしまったのだ。
それが本当に残念でたまらない。
いずれにせよ、この「バラ泥棒」はいまだにぼくにとっては今までぼくが試した香水の中で一番好きな香りだと断言できる。
無人島に一本だけ持って行って良いと言われたら、迷わず(もう一本迷う香りはあるけれども)、この香りを選ぶだろう。
この「バラ泥棒」に出会えたことを今でも心から感謝したいと思っている。

NOTES

Top notes: Plum, Apple, Bergamot

Middle notes: Rose, Patchouli, Sandalwood

Base notes: Benzoin, Amber, Musk

バラの香りの他に強く感じるのはパチョリ。雨上がりの土を思わせるむっとした香りこそが、この「バラ泥棒」の骨格を形成していて、そこにひそかにバラが存在している感じ。だから、バラが前面に出ていないのだ。ぼくが惹かれるのは、そこなんだと思う。
これは、昼夜、季節、シチュエーションを問わず、とにかくどんな時でもつけたいくらいに好きだ。
スーツのようなカチッとした服装にも似合うし、ジーンズなどのラフな格好でも問題ない。
今ある5本目の「バラ泥棒」と、先日予備でネットで注文した分を使い終わった頃には海外旅行にも行けるようになっていると思うので、その時に買い足す予定だ。


My Evalution

★★★★★