第314夜 a cigar stub

燻されウードの中に潜むもの

 

DATA

Name:a cigar stub 
Brand:KOHSHI
Lauched in 2021
Perfumer: Matsuno Hidenori(松野 秀至)
50ml ¥18,700

My Episode

今年のサロンドパルファンは、3年ぶりに6階の催事場で開催されるということもあり、始まる前からぼくの鼻腔はすっかりと開きっぱなしだった。
年に一度の香りの祭典なんだもの、開かない方がおかしいではないか。
サロンドパルファンの情報が解禁するや否や、ぼくはもう、大騒ぎをしていた。SNSでもサロパサロパと騒ぎ、伊勢丹の香水売り場に行って、いつもお世話になっている担当者を捕まえては、サロパサロパと呪文のように唱えていた。そうしたら、そんなぼくを見かねてから、担当の方から内覧会に誘っていただき、なんと、ぼくはサロパを他の人よりも少し早めに楽しむことができたのだ。
でも、なんせ、前日の、いわばコンサートでいえばゲネプロのようなもの。
売り場に立っている人も、参加するぼくの方もあまりよくわからないままに、たった二時間(ぼくたちが入場できたのは18時からだったので)で見られるブースも限られてしまった。事前に会場マップや参加ブランドはわかっていたものの、実際に見聞きしないとわからないのが香水の世界。
だから、本当に初日はサラッと見るだけで終わってしまったのだ。

さて、そのたった2時間の間で最もインパクトを受けたブランドが、日本の調香師さんが立ち上げた「KOHSHI」というブランド。何が面白いかというと、ずらりと全51種類の香水が並んでいたのである。
もうね、これは圧巻。
初出店ブランドで、ここまで多くの数を用意しているところはなく、それだけでもワクワクしてしまう。
しかも、ぼくはノーチェックだったから、余計に興奮した。
ブースに立っているスタッフの方にお聞きしたら、将来的には108個、つまり煩悩の数の香水を作ることを目指していて、それに伴った香水を作っているのだとか。例えば、鍵穴というタイトルの香水は、男性が鍵穴を見ると、その奥で女性が着替えているのではないかという妄想に囚われ、ついついのぞいてみたくなるという心理を描いているのだとか。
もう、そういう話がとても面白かった。そして、パンフレットをいただいたのだが、これがまたすこぶる良くできている。
ぼくが一番感動したのは、巻末にある全香水リスト。
今リリースされている香水の(新作をのぞいて)すべてが網羅されているだけではなく、短い説明とともに、すべての香水のNOTESがまとめられているのだ。
ここまで詳細にNOTESを公開しているブランドは少ないと思うので、香水マニアのぼくはそれだけで嬉しくなった。
さらに、ちらっとのぞいてみたら「Agarwood」の文字が。しかも、それも、1本だけではない!かなりの数のウードが香料として使われているようなのだ。
もうね、それだけでテンションマックス。
その日、家に帰って、香料のまとめられたすべてのページをコピーし、さらにAgarwoodと書かれた香水にチェックを入れたら、11種類の香水に入っていたのである。
内覧会の時は何も買わずに、気になった香りを腕につけただけなのだが、その中の一本もやはりAgarwoodが入っており、しかもぼく好みの香りだったので、初日にそれを購入した。
その香りが今日ご紹介する「a cigar stub」だ。これ、実はAgarwoodが入っていると知らずに、何となくタイトルとフラスコに残っている香りだけで良いなと思って腕につけたのだが、それが調べてみたらウードを使っていると知り、ぼくの鼻にさらに自信を持ってしまったのである。
さて、香りを見てみると、トップからしっかりとスモーキーな感じはする。
ただ、少し気になったのはミドルから感じるグリーン味。少しぼくの苦手なクリーミーなグリーンが顔をのぞかせる。
ただ、ラストになると、今度はスモーキーが再び顔を出し、さらに甘さを伴ったウッディが出てくるという、非常に不思議な香りなのである。

NOTES

Top:Lemon, Tabac, Eucalyptus            
Middle:Rose, Gearanium, Blackpepper, Clove Bud, Leather, Myrrh
Base:Sandalwood, Musk, Agarwood, Vetiver, Benzoin, Amber

この香料の一覧を見てみると、グリーンに感じるのは恐らく、サンダルウッドとベチバーだろう。落ち着いてくると、ウッディな雰囲気がメインになってくるのだが、かすかにグリーンは残っている。ただ、それほどそれが気になるわけではない。とにかくシガー系、タバック系が好きな人には試して欲しい香りである。

My Evalution

★★★★

最近は日本人がプロデュース、あるいは直接ブレンドするブランドもちょこちょこ出てきたが、ぼくに言わせると、どれも優しくて物足りない。あまりにも日本人に寄り添い過ぎている感じがして、ガツンと深い、日本人離れした香りを好むぼくには、どうも合わないブランドが多い。
ところがKOHSHIさんは、日本人には敬遠されがちなウードをしっかりと使い、深みのある香りを作ってくれている。それに、51種類もあるから、選ぶ楽しみもあり、そこにぼくは非常に共感を覚えた。
今年のサロンドパルファンで、個人的に一番の目玉になったブランドであることは確かだ。
他にも何本か購入したので、このブログで色々と紹介していきたいと思っている。